肝臓がん
肝臓がんとは
肝臓にできた「原発性肝がん」と別の臓器から転移した「転移性肝がん」に大別されます。原発性には、肝細胞ががんになる「肝細胞がん」と、胆汁を十二指腸に流す管(胆管)ががんになる「肝内胆管がん」などがあります。日本では、原発性肝がんの90%を「肝細胞がん」が占めており、ここでは「肝細胞がん」について説明します。
以前はB型・C型肝炎ウイルス感染が原因で生じる肝細胞がんが90%を占めていました。一方、脂肪肝は肝硬変や肝臓がんへは進行しないと考えられていましたが、最近では、脂肪肝のうち飲酒歴がなくても発症する非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)だと肝臓がんになることが分かっています。NASHの5〜20%が肝硬変に至るとされ、その比率は年々増加しています。
脂肪分の摂りすぎだけでなく、ごはんや麺類などの「糖質」も脂肪肝の原因となります。糖質は腸で吸収されエネルギーとして使われますが、余分なエネルギーは肝臓へ運ばれ、脂肪酸に代わりこれが中性脂肪となり肝臓に蓄えられます。脂肪が蓄積すると、慢性的な炎症から肝臓が硬くなり(肝硬変)、がん化すると言われています。ただし肝硬変を経ずにがん化する場合も多く、遺伝子や体質の異常、代謝の異常、環境要因など、色々な原因が交絡してがんになるとされています。
肝臓がんの症状
早期にはほとんど症状が出ません。
以下の症状が当てはまる方は早めに検査を受けましょう。
- 黄疸(皮膚や目が黄色くなる)
- むくみ
- かゆみ
- だるさ・倦怠感
- おなかの張り
- みぞおちや右わき腹の痛み
肝臓がんの検査方法
腹部超音波検査 | 身体への影響がなく、簡便な検査法ですが、数mmの早期肝臓がんを発見できることもあります。慢性肝炎では6ヶ月に1回、肝硬変では3ヶ月に1回は超音波検査を受けることが望ましいです。肝硬変で肝臓の萎縮が強い人、高度の肥満者、肺気腫や肺切除後の人では超音波で見えにくいことがあります。 |
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CT ・ MRI検査 | CTは、超音波検査に比べ客観性があり、病変の位置、大きさや広がりをみます。造影剤を投与することで病変の血行動態が把握でき、質的診断に有用です。また、動脈や門脈への血管浸潤も把握できます。 MRIは、強い磁石で体内の状態を外部から検査する方法です。CT同様に臓器の断層像を撮りますが、CTと異なりX線を使わないので被爆の心配がありません。Gd-EOB造影MRI検査では、小さな肝臓がんが客観的に診断できます。体内に金属が入っている方や入れ墨の方は、検査できない事もあります。また閉所恐怖症の方も検査困難です。 |
腫瘍マーカー | AFPやPIVKA-IIを測定しますが、これだけでは早期発見はできないので、画像検査などを組み合わせることが重要です。AFPは慢性肝炎や肝硬変のような肝臓がんでなくても上昇するため、軽度~中等度高値(~400 ng/mL)例では鑑別困難とされています。一方で、近年ウイルス性肝炎では抗ウイルス療法により慢性肝炎が落ち着いていることが多く、AFPが低めでも肝臓がんの画像検査を受けることは重要です。AFP-L3分画比率の測定は肝臓がんと肝良性疾患との鑑別診断、肝臓がんの早期診断、および治療後の予後管理に有用です。 |
肝臓がんの治療方法
肝硬変を合併している症例が多いため、肝予備能(肝機能がどのくらい保たれているか)や、肝臓以外の臓器に転移があるか、脈管(門脈、静脈、胆管)への広がり、がんの個数、がんの大きさなどに基づいて検討します。手術(肝切除、肝移植)、穿刺局所療法(ラジオ波・マイクロ波焼灼、エタノール注入療法)、肝動脈(化学)塞栓療法(TAE・TACE)、薬物療法(分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬)、放射線治療(重粒子線、陽子線)があります。
肝硬変などの影響で肝機能が低下して手術に耐えられないことも多く、切除の適応になるのは全ての肝臓がんの3割程度です。腫瘍の大きさが3cm以下、個数が3個以下の場合には切除ができなくても穿刺局所療法が有効です。切除も穿刺局所療法もできない方は、全肝臓がんの4割程度です。この場合は、肝機能に応じて肝動脈塞栓術などが考慮されます。ただし4cmを超えるがんでは半数以上で肝臓内の血管などに目に見えないがん細胞が広がっており、肝動脈塞栓術の効果が不十分になりやすいと言われています。この場合、強力な放射線治療の効果が期待されます。このように、個別の状況に合わせた治療が必要になるので、しっかりとした情報収集と主治医からの説明が重要になります。肝臓がんが発見された場合には、当院では病状と患者さんの背景に合わせ、がんセンターや大学病院をはじめ、適切な施設にご紹介いたします。
肝臓がんの対策・対処法
がん全般の予防には禁煙、節度のある飲酒、バランスの良い食事、身体活動、適正な体形の維持、感染予防が有効であることが分かっています。
肝臓の慢性的な炎症や肝硬変が影響しているとされています。そのため、健康診断などで肝機能の異常や肝炎ウイルスの感染などを指摘されたときには受診するようにしましょう。