過敏性腸症候群
過敏性腸症候群とは
過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome, IBS)は、原因がないのにもかかわらず腹痛やおなかの張りなどの症状と、それと関連して便秘や下痢などの排便異常(排便回数や便の性状の異常)が続く病気です。日本人の約15%の方に認め、20歳~40歳代に好発します。女性ホルモンの影響で男性よりも女性に多いです。おなかの痛み、便秘・下痢、不安などで日常生活に支障をきたすこともあり、受験などのストレスの影響か、小中学生にも増えています。
原因としては、脳から腸、腸から脳への双方の信号が強いことが考えられます。ストレスは脳から腸に向かう信号を強くし、自律神経・内分泌を介して消化管運動を変化させます。食べ物の種類と摂取方法によっては、腸から脳に向かう信号が強くなり、知覚過敏状態になります。また、細菌やウイルスによって感染が起こると、腸の炎症により粘膜が弱くなるだけではなく、腸内細菌の変化も加わり、運動と知覚機能が敏感になります。このように、感染性腸炎にかかった場合、回復後に過敏性腸症候群になりやすいとされています。また、食物アレルギーと下痢型の関連が指摘されています。
過敏性腸症候群は、加齢によって軽快し、排便状況が変わる方も多くいます。報告では、12年後も20%の方は下痢型、15%の方は混合型に、35%の方は症状がなくなるとされています。さらに、健康な方と比べて2倍以上の方で機能性ディスペプシアや胃食道逆流症が合併するとされています。うつ状態や不安の合併も多く、日常生活での支障が強くなるとされています。さらに、過敏性腸症候群から炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)となる確率も高いとされています。
過敏性腸症候群の症状
便通異常の現れ方によって、「下痢型(男性に多い)」、「便秘型(女性に多い)」、「混合型」があります。以下の症状が当てはまる方は、我慢せずに診察を受けましょう。
- ストレスや緊張後の腹痛・便意・下痢
- 便秘に伴うおなかの張り
- 便秘と下痢を交互に繰り返す
- 排便異常のために電車に乗れない・外出できない
- 数日排便がなくその後最初に硬い便が出て1日数回下痢になる
- 慢性あるいは再発性に持続する
過敏性腸症候群の検査方法
問診 |
どのような症状が、どのくらいの頻度で、どのくらいの期間続いているのか、症状はどのような時によく起こるのか、を問診します。過労や睡眠不足、精神的なストレスがないかも問診します。 診断にローマ基準というものを用いることもあります。最近3か月の間に、月に3日以上おなかの痛みや不快感が繰り返し起こり、次の2項目以上の特徴を示します。 ①排便によって症状がやわらぐ、②症状とともに排便の回数が変わる、③症状とともに便の形状が変わる。 |
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大腸カメラ(下部消化管内視鏡検査) | 問診だけで診断を確定することは困難な場合も多く、大腸がんなどの悪性疾患や炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)など、症状を起こす病変の有無を調べます。 |
その他の検査 | 血液検査、尿・便検査などを行い、甲状腺機能障害などの内分泌疾患や糖尿病性神経障害、寄生虫疾患などがないか調べます。 |
過敏性腸症候群の治療方法
薬物療法として、腸内環境を整える薬、便中の水分量を調節する薬、乳酸菌製剤、緩下剤などを組み合わせます。精神的な要因が大きい場合には、神経伝達物質やセロトニンを調整する薬を使用します。
- 高分子重合体(ポリフル、コロネル):水分を吸収しゲル化することで、便に適度な水分を持たせます。下痢型・便秘型に対する薬物療法で基本となります。
- 腸管蠕動調整(セレキノン):下痢型・便秘型・混合型のいずれにも有効です。
- セロトニン受容体拮抗薬(イリボー):腸管運動の促進、水分輸送機能の改善といった作用により下痢を抑制します。下痢型の特効薬とされており、内臓知覚過敏の改善といった効果期待できます。
- 腸管蠕動抑制(トランコロン):活発になりすぎた腸管の働きを抑制します。腹痛が強く現れている下痢型に適しています。副作用があり、前立腺肥大、緑内障のある方には使用できません。
- 止痢剤(ロペミン):過敏性腸症候群においては、ロペミン以外の下痢止めは推奨されていません。
- セロトニン受容体刺激薬(ガスモチン):便秘型に対する高い効果が期待できます。
- 緩下剤(酸化マグネシウム、モビコール):緩下剤には様々な種類がありますが、長期間使用する場合には刺激性下剤よりも浸透圧性下剤が推奨されます。
- 粘膜上皮機能変容薬(リンゼス、アミティーザ、グーフィス):腸液の分泌を促進することで、便をやわらかく、送り出しやすくします。便秘型に有効です。
- 抗不安薬(カウンセリング、生活改善・食事改善と組み合わせる):三環系抗うつ薬(腹痛を和らげる)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬 抗アレルギー薬 漢方薬:桂枝加芍薬湯(腹痛の改善)、大建中湯(便秘型)
過敏性腸症候群の対策・対処法
薬物治療だけでなく、生活習慣の改善が重要です。食事時間が不規則だったり、野菜摂取不足などの食生活の乱れや、睡眠不足、運動不足、ストレスなどの自律神経の乱れが関与しているといわれています。症状とうまく付き合う必要もあるので、定期受診が大切です。