炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)
炎症性腸疾患とは
炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease, IBD)は、腸の粘膜に炎症を引き起こす病気の総称です。感染性胃腸炎などの病気は含まず、一般的には潰瘍性大腸炎とクローン病を指します。発症すると下痢、腹痛、血便などの症状が現れ、重症な場合には発熱や倦怠感、体重減少などの全身症状を引き起こします。また腸だけでなく、関節や目、口、皮膚などにも症状が起こることもあります。炎症性腸疾患は症状の軽快と再燃を繰り返すのが特徴で、腸の内部が狭くなったり、がんが発生することもあります。衛生状態が整った先進諸国に多い病気で、欧米型の食生活も関与しているとされています。日本では若い方で増えており、潰瘍性大腸炎は20万人、クローン病は7万人を超えます。潰瘍性大腸炎、クローン病ともに医療費を国が補助する特定疾患(難病)に指定されています。
【潰瘍性大腸炎】
大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる大腸の炎症性疾患です。特徴的な症状は、血便を伴うまたは伴わない下痢とよく起こる腹痛です。病変は直腸から連続的に広がり、大腸全体に拡がることもあります。重症化すると深い潰瘍から穿孔を起こしたり、大腸がんを合併する場合もあります。好発年齢は男性で20~24歳、女性では25~29歳ですが、性差はなく若年者から高齢者まで発症します。遺伝性があることや、虫垂切除後や喫煙者では発症頻度が「低い」ことが報告されています。
【クローン病】
主に若年者にみられ、口腔から肛門までの消化管のどの部位にも起こります。小腸末端部などの小腸と大腸が好発部位で、非連続性の病変を特徴とします。最近では、遺伝的素因を背景に、食事や腸内細菌に対する免疫過剰反応によって起こるとされています。好発年齢は男性で20~24歳、女性で15~19歳で、男女比は、約2:1と男性に多くみられます。先進国に多く、動物性脂肪やタンパク質の過剰摂取、生活水準が高い、喫煙などが危険因子とされています。
炎症性腸疾患の症状
以下の症状が出現した場合は、医療機関を受診し、早期に診断を受けることが重要です。
- 下痢
- 血便
- 腹痛
- 体重減少
- 発熱
- 痔ろう
- 皮膚症状
- 関節や眼の症状
炎症性腸疾患の検査方法
血液検査 | 炎症や貧血の程度を評価します。また、大腸がんなどとの鑑別として、CEAなどの腫瘍マーカーを調べます。 |
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大腸カメラ(下部消化管内視鏡検査) | 粘膜の炎症、潰瘍や腫瘍の有無を調べます。粘膜を採取し顕微鏡の検査(病理検査)に提出します。大腸カメラでは小腸や十二指腸などを観察することができないため、大腸に病変がない場合はカプセル内視鏡で全消化管を調べることもあります。 |
消化管造影検査 | 狭窄を含めた小腸・大腸の全体像を調べます。小腸造影検査では口から造影剤を投与する方法と、チューブを十二指腸に留置し造影剤を注入しながら観察する方法があります。注腸造影検査では肛門から造影剤を注入しながら観察を行います。 |
炎症性腸疾患の治療方法
■潰瘍性大腸炎の治療
原則的には薬による治療が行われます。重症例や薬が効かない場合には手術が必要となります。
【内科的治療】
現在、完治に導く治療はありません。治療の目的は大腸粘膜の異常な炎症を抑え、症状をコントロールすることです。薬物治療には以下のものがあります。
- 5-アミノサリチル酸(5-ASA)(従来のサラゾスルファピリジン、副作用を軽減したメサラジン): 口や直腸から投与し、持続する炎症を抑えることで症状は著しく減少します。軽症から中等症の治療や再燃予防に効果があります。
- 副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン):口や直腸、あるいは血管に投与されます。中等症から重症例に用いられ、強力に炎症を抑えますが、再燃予防効果はありません。
- その他: 血球成分除去療法、免疫調節薬・抑制薬、抗TNFα拮抗薬、抗接着分子抗体、抗インターロイキン12/23拮抗薬、ヤヌスキナーゼ阻害薬
【外科的治療】
多くの場合、薬物治療で改善しますが、以下のケースでは外科手術(大腸全摘術など)が行われます。「薬物治療が無効な重症例、副作用などで内科治療が行えない場合、大量出血・穿孔例、癌またはその疑い。」
近年では、大腸全摘術の際に人工肛門を作らない工夫もされています。
■クローン病の治療
内科治療(栄養療法、薬物療法)と外科治療があります。基本は内科治療ですが、腸閉塞や穿孔、膿瘍などの合併症には外科治療が必要となります。
【栄養療法・食事療法】
おなかの安静と食事からの刺激を取り除くことで、腹痛や下痢などの症状の改善と消化管病変の改善が認められます。栄養療法には経腸栄養と完全中心静脈栄養があります。経腸栄養は、抗原性を示さないアミノ酸が主体で脂肪の少ない成分栄養剤と少量のタンパク質と脂肪がやや多い消化態栄養剤があります。完全中心静脈栄養は高度な狭窄がある場合、広範囲な小腸病変が存在する場合、経腸栄養療法を行えない場合などに用いられます。
【内科的治療】
症状のある活動期には、5-ASA、副腎皮質ステロイドや免疫調節薬(薬剤の詳細については、「潰瘍性大腸炎治療」の項目をご参照ください)が用いられます。5-ASAと免疫調節薬は、症状が改善しても再燃予防のために投与を続けます。これらの治療が無効な場合には、抗体治療や血球成分除去療法が行われることもあります。
【外科的治療】
高度の狭窄や穿孔、膿瘍などの合併症に対して行われます。可能な限り腸を温存するために、小範囲の切除や狭窄形成術などが行われます。
炎症性腸疾患の対策・対処法
潰瘍性大腸炎の多くは、症状の改善や消失(寛解)を認めますが、再発する場合も多く、寛解を維持するために継続的な内科治療が必要です。内科治療で寛解とならずに手術が必要となることもあります。また、発病して7-8年すると大腸がんの危険があるので、症状がなくても定期的な内視鏡検査が必要になります。大腸がん合併例、外科手術が必要な重症例を除けば、多くの方の生命予後は健常人と同等です。
クローン病の多くは、一度は外科手術が必要になるとされてましたが、治療の進歩で減少傾向です。寛解導入は可能となってきていますが、症状が落ち着いていてもひそかに病気は進行するため、治療を継続しつつ定期的な検査を行うことが大切です。